Xenology
J. Reynolds (1963) J. Geophys. Res. 68 2939-3956



 Xenologyを勉強し直そうと思い、50年も前の論文であるがまずこの論文から読むことにした。Xenology という名前を宣言した論文なのだから。
 Introductionの最初に書かれたその宣言の部分をまず引用しておこう。

Xenology means to us the detailed study of the abundance of Xe isotopes evolved
from meteorites by heating or other means and the inferences that can be drawn from
these studies about the early history of the meteorites and the solar system. To the
classicist, xenology means study of a strange substance, which is also appropriate.

 Xenologyは加熱などの実験を通して抽出される隕石の中に含まれるxe同位体の詳しい研究と
その結果から描かれる隕石と初期太陽系の歴史の研究を意味する。
 ギリシャ古典学者にとってはXenologyは奇妙なものの研究という意味を持つが、その意味でも妥当である。


Xenoというのはギリシャ語で「外来の」とか「奇妙な」といった意味があるので、Xe同位体という奇妙なものを対象にした学問だという意味でも理にかなった命名だと言っているのです。

 学問的時代背景としては
  • Xeを含む不活性ガスの同位体存在比は1950年までにNierによって報告がなされていた。
  • 1957年に宇宙に存在する元素がどのように出来たかを解き明かした有名な論文、Synthesis of the elements in stars(星の中での元素合成)が発表されている。
    (Burbidge, E. M., G. R. Burbidge, W. A. Fowler, and F. Hoyle, Rev. Mod’. Phys, 29, 547-650, 1957)
  • 実験技術の点からはこの論文の著者Raynoldsによってパイレックスガラス製の質量分析計が開発され、真空ポンプを切り離した静的作動(Static)の状態でも、高真空を保ったまま同位体測定が出来るようになった。


  The special anomaly
 隕石の中に太陽系の初期には存在したが現在では消滅してしまっている、いわゆる「消滅各種」の証拠が見つかるであろうという予測はBrown(1947)以来のものであるが、その中で特に有力と思われていたのが、半減期1700万年の129Iが崩壊して生じる129Xeの存在を突き止めることであった。隕石の中に元々含まれるXeの量はわずかなので、129I起源の129Xeが付加されれば同位体存在度が大きく変わると考えられる。
 隕石中のXeの研究は1950年代後半になって始められたが、129Xeの過剰が初めて認められたのは1960年でこの論文の著者ReynoldsによってRichardton隕石について報告されている。
 隕石を速中性子で照射すると127Iから128Xeが作られる。この隕石試料から段階的に加熱を行いXeを抽出すると、I起源の128Xeと129Xeは同じように抽出されることが明らかになった。低温で抽出されたガスは129Xeを失っている場合もあるが、隕石の長い歴史の中で逃げやすい場所にあったXeが失われたからだと解釈された。
 隕石中の過剰な129Xeについては隕石の中で作られたのではなく、既にあったものが隕石に取り込まれたのではないかという批判もあったが、この実験結果により過剰な129Xeは隕石の中で発生したことが明らかになった。
 安定同位体である127Iは宇宙の歴史を通じて生成され、放射性同位体である129Iは生産される一方で存在量に比例して消滅して行くので、元素合成が終わった時点での127Iに対する129Iの存在比は129Iの平均寿命(τ)と元素合成継続期間(T)との比で表される。隕石が作られた時点の宇宙における129I/127Iの値が隕石に記録されたなら、この値を求めることで、隕石が元素合成終了何年後に作られたかを計算することができる。この値は、元素合成が何年続いたか、どんな活動モデルであったか(一様であったか、元素合成最終期に強い活動があったかなど)などで変わってくるが、隕石間の相対年代はモデルにはよらない。
 129Iの崩壊物129Xeが隕石中に存在するなら、それより半減期の長い244Puの核破砕生成物も存在するはずなのだが、この時点ではまだ識別されていない。この識別は次のThe general anomalyで論じられる。

    The general anomaly
   Richadton隕石のXe同位体組成は129Xe以外のXeの同位体についても大気Xeの同位体組成とはわずかながら異なっていることを示している。この同位体組成異常は炭素質隕石でも認められ、この論文で報告された3つの炭素質隕石では、同位体組成はほぼ同じである。のちにこの組成はAVCC(Average Carbonaceous Chondritic)Xeと呼ばれるようになる。データの精度は細かな議論をするには十分と言えない。132Xeを基準としてみると、Avcc-Xeは軽いXeに富み、重いXeが不足している。
 Xeの同位体全体に対してこのような異常が生じる理由として、Kuroda-Cameronによって唱えられた考え方が定性的に紹介されている。それによると、1)質量数131以上の重いXeには244Puの核分裂生成物の寄与が考えられる。2)太陽風に含まれるXeによって128Xe, 130Xe, 132Xeは増加し、131Xeは減少する。この2つの効果を合わせるとGeneral anomalyは定性的に説明されるとしている。従って、244Puの核分裂生成物のXe同位体組成を知ることが重要であるが、この時点ではまだ分からないと結んでいる。

 その後のXenologyの発展を考えると、この論文は要所をつかみきった論文だと思う。間もなく244Puの核分裂に由来するXeの同位体組成は実験的に測定され、General anomalyを説明できるものでないことが分かった。General anomalyを追い続けた結果は、星の中での重元素合成の過程(s-processとr-process)の生成物を隕石が保持していたという話にまで発展することになる。  




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