Component of Xe in Solar System
Pepin and Phinney (1976) Preprint, Minnesota University 1-190  から Introduction



 次に紹介するXenologyの論文は、1976年に Pepin と Phinney の共著による論文である。Reynolds のXenologyの論文には「Mr. Pepinから得た未発表のデータ」とDr. でなくMr.で謝辞が書かれているから、この時点では大学院の学生だったのであろう。1976年にはミネソタ大学理学部の教授であり、PhinneyはPepinのもとで学位を取った学生であった。
 この論文はプレプリントの形で研究者の間で広く読まれたが、科学雑誌に掲載されることはなかった。「長過ぎて掲載できない。」「査読が対応できない。」など、いろいろの「理由」が聞こえて来た。雑誌掲載がないまま、いろいろな研究者に引用されたが、引用する際も雑誌名はなく、「Preprint, Univ. Minnesota」とされていた。私がPepinの研究室のポスドクになってミネアポリスに行ったのが、ちょうどこの年であった。PepinはNASAのDirectorとなったヒューストンに行っており、私の実質的なボスはCalvin Alexanderだった。(AlexanderもReynoldsのもとで学位を取った。原子炉から取り出した244Puを用いて、その核分裂生成Xeの同位体組成を実験的に決めたという大きな業績があった。)Pepinのこの論文は大変長く、内容も専門的なので、ここにすべてを紹介することはしないが、要所だけでも紹介しよう。特に紹介したいのは「Introduction」である。ここには、Reynoldsの「Xenology」以後この時点までの「Xenology」の歩みがよくまとめられている。
 たまたまミネソタ大学に戻って来たPepinがこの論文についてセミナーでしゃべったことがあった。彼は、最終章に書かれた月試料のXenologyに特にこだわっていたような記憶がある。

 論文を追っての細かい紹介はこのページに示す目次から読めるようにし、このページでは「Introduction」とその後の大まかなあらすじだけを示しておく。

目次 
1.Introduction このページ20140709
2. Experimental Procedure,  3-1. Xenon from bulk meteorites20140710
3-2.The relation between meteoritic and atmospheric xenon その120140714
3-2.The relation between meteoritic and atmospheric xenon その220140724
3-3.Xenon components in bulk meteorites20140816
3-4.Xenon in acid-resistant residues 20140917 追加
3-5.Separation and mobilization of xenon components in thermal and chemical release: the compositions of trapped meteoritic xenon20140924
3-6.Lunar trapped xenon and the solar wind 20141012
4.Summary and implications 20141015
 
Introduction

    Xeの4つのComponent
     Pepinはまず、この論文がXenologyの研究論文であると宣言し、Reynoldsの定義を再提示する。そして、いまや対象は隕石にとどまらず、地球と月もXenologyの対象であると宣言する。
     Pepinのこの論文の時点までに、天然に存在するXeは様々な同位体組成を持ち、いくつかの"Component"の混じったものと考えなければならないことが理解されるようになっていた。
     "Component"は大雑把に分けて、「放射生成Xe(129Iから生じた129Xe)」「核破砕生成Xe(あるいは宇宙線生成Xe)(BaやTeに宇宙線が当たり、核破砕が起きて生じるXe)」「核分裂生成Xe(UやPuの核分裂で生じるXe)」と「捕獲Xe(Trapped Xe)」の4種類になる。初めの3つはいずれも核反応生成物であり、その生成機構も、同位体組成もともによく理解されている。
     捕獲Xeの定義は簡単ではない。一般的に、このComponentは太陽系が持っていたXeであろうと考えられる。現在太陽系の物質の中に見られるXeは太陽系原初のXeではない。拡散による固体物質からの放出、質量数に依存して固体物質にとらえるいくつかの物理過程、他の場所で出来た核反応生成物による汚染などによって、同位体組成は変化していると考えられる。この論文で「捕獲(trapped)Xe」というのは、その試料の(in situ)で生じた核反応生成Xeを取り去った残りのXeのことを指す。これは、3同位体プロット図で端成分として理解される。

    研究史

    2成分モデルの成立
     1960年から1964年までの5年間にReynoldsによって書かれた5編の論文で、捕獲Xeは主に2つの成分からなっていることがはっきりして来た。
     1960年の2編の論文では、一つは大気成分が軽い同位体に富むように同位体分別したと受け取れる成分で、Reynoldsは太陽系の始源的なXeと解釈した。この成分は隕石のXeを大気Xeで規格化したとき、軽いXeに富み重いXeに乏しい滑らかな曲線上に並ぶ。しかし、質量数134と136の重いXeはこの曲線から上方に外れる。この上方への離脱をReynoldsは、第2の成分、核分裂起源と思われる重いXeが加わったためと解釈した。
     Reynoldsグループ(Krummennacher et al., 1962) は3つの炭素質隕石、Orgueil(C1)、Murray、Mighei(共にC2)を分析して、Xeの同位体パターンに差がないことを示した。この3隕石の平均的Xe同位体組成が後にAVCC(AVerage Carbonaceous Chondrite) Xeと呼ばれ、隕石の捕獲Xeと同義に使われるようになる。
     1963年の論文(Xenologyを宣言した論文)では、段階加熱によってXe抽出を行うと、Xeの同位体組成は抽出温度ごとに異なることを示し、2つの端成分が別々のサイトにとらえられていると解釈すると説明できるとしている。
     ReynoldsとTurnerによる1964年の論文では段階加熱Xe抽出法によりRenazzo隕石の精密な分析を行い、200℃から600℃の間で地球大気の汚染と考えられるXeが放出されること、700℃から900℃の間で核分裂生成物に似たXeが放出されること、600℃から1300℃の間に大気Xeが同位体分別したような(太陽系始源)Xeが放出されることを報告している。129Xeを除けば、捕獲Xeは核分裂生成物に似たXe(後にCCF-Xeと名付けられた。CCFはCarbonaceous Chondrite Fission: 炭素質コンドライト核分裂の意味である。)と大気Xeが同位体分別したような(太陽系始源)Xeの2成分混合でうまく説明できることが示された。また、核分裂生成物に似たXeが130Xeを含まないと仮定して、太陽系始源Xeの同位体組成を3次元相関プロットを用いて決めることも出来た。RenazzoのXeは大筋で2成分モデルで説明できたのである。
     ここでPepinが括弧書きで注釈をつけている。「その後いろいろ研究しても、核分裂生成物に似たXeを生んだ核分裂を特定することも出来なかったし、隕石のXeと地球大気のXeを同位体分別する方法(いつ、どこで、どのようにして)も特定できなかった。」と。

    計算法によって異なるCCF-Xeの同位体組成
     CCF-Xeの同位体組成を計算するには2つの方法があった。一つは、太陽系始源Xeから質量分別で出来たのが大気Xeであると考え、太陽系始源Xeの軽いXe同位体に基づいて重いXeの同位体存在量を計算する。これにCCF-Xeが加わったものがAVCC-Xeだと考えるのだから。AVCC-Xeから始源Xeを引き去ればCCF-Xeになるはずである。この際、130XeにはCCF-Xeの寄与はないと考えている。
     もう一つは段階加熱抽出法によって得られたデータを相関グラフによって処理してCCF-Xeの同位体組成を求めるものである。説明を簡単にするために3同位体プロットで考えてみよう。縦軸に130Xeと136Xeの比、横軸に134Xeと136Xeの比をとって示すことにしよう。2成分混合系の場合混合比率の異なる試料は2つの端成分を表す点をつなぐ直線上にプロットされる。普通端成分は直線上のどこにあるか分からないが、CCF-Xeの場合は130Xeが0であると考えるので、この成分に対応する点は縦軸の目盛り(130Xe/136Xeの値)が0になる。つまり、データの載る直線が横軸を切る点の134Xe/136Xeの値が、CCF_Xeの134Xeと136Xeの同位体比になる。このようにしてCCF-Xeの132Xeと136Xeの比、131Xeと136Xeの比も求められる。これら2つの考え方がともに正しいなら、求められたCCF-Xeの同位体組成は同じにならなければならない。しかし現実には、この2つの方法で結果が違ってしまったのである。
     相関を用いる方法に限ってもCCF-Xeの同位体組成は必ずしもいい一致を見せない。理由の一つは実験精度の向上と、新しい分析の追加によるデータベースの充実にあっただろう。128Xeの精度のよい測定が行われるようになり、128Xeと130Xeを同時に0に出来たとき、CCF-Xeが核分裂生成物である可能性は高まった。しかし新たな隕石データの追加は新たな問題を提出することがある。アイェンデやモコイアというCV3に分類される炭素質隕石にはCCF-Xeが豊富に含まれるが、これに伴って、128Xe、126Xe、124Xeも過剰に含まれることが次第に明らかになって来た。このように重いXeのみでなく軽いXe同位体の過剰を見せる成分を発見したマニュエルはCCFX-Xeと名付けた。これは、CCF-Xeの起源が核分裂物質であると考えるには都合の悪いデータである。黒田和夫、マニュエル等のアーカンソー、ミズーリグループはCCF-Xeを同位体分別だけで説明しようとしたが、CCFX-Xeの発見により、そのうち1回は重い同位体が増える方向、1回は軽い同位体が増える方向になる必要がある。また、大気Xeの分別の仕組みも説明する必要がある。同位体分別だけで説明するのは難しいだろう。
     段階加熱抽出法ではCCF-Xeおよび始源Xeをになっている物質がないかよくわからない。ルイスを含むシカゴ大学のアンダースを中心とするグループはアイェンデを化学的に処理し、99.5%を溶かし去った残りの鉱物に希ガスのほとんどの量が含まれることを発見した。この残留鉱物を酸化性酸で処理すると始源Xeはなくなるが、CCFX-Xeが濃集する。アンダース等はCCF-Xeは超重元素の核分裂生産物であるというスペキュレーションを提示した。(Lewis et al., 1975)
     アポロ宇宙船が持ち帰った月の表面の細かい砂(soil)には太陽風によって太陽からもたらされたXeが含まれていて、このXeは始源Xe、あるいはそれに近いと思われた。しかしAVCC-Xeからこの太陽Xeを引き去った結果もまた異なったCCF-Xeをもたらした(Eberhardt et al.,1972)。月の細かな砂に含まれるXeの同位体組成は太陽風のXeから何らかの変化をしているものと思われる。
     隕石の2つのタイプ、コンドライトとエコンドライトに共通するXe成分の同位体比を求める試みもなされた(高岡;1972)。コンドライトは始源XeとCCF-Xe、エコンドライトは 始源Xeと244Xeの混合によって説明するというモデルに従って計算したCCF-Xeの同位体組成もまた、従来の結果とは一致しない。
     ここまでが、1976年のXenologyの現状として紹介されている。

    【このあとのあらすじ】
     まずこの論文が書かれた時点で利用できる段階加熱によって隕石から得られたXeデータから信頼できるものを選別する。
     CCF-Xeの同位体組成は3同位体プロットで求めた場合と、地球大気は炭素室隕石中のXeが質量分別したものと考えた場合で異なった同位体組成が得られていたが、これは地球大気Xeには地球形成後に地球内部から放出されたPu起源のXeが含まれるためだということが分かった。大気中に含まれる地球起源のPu-Xeの補正をすると、2つの方法で得られたCCF-Xeの同位体組成は一致した。
     CCF-Xeには重いXeだけでなく軽いXeも含まれていることが明らかになって来ていたが、これらにH-Xe, L-Xeと名付け、またAVCC-XeからH-Xe、L-Xeを差し引いた残り(基本となるXe)をU-Xeと命名した。134Xe/136Xeを横軸、132Xe/136Xeを縦軸にとった3同位体プロット図上で、炭素質コンドライトのデータはU-XeとH-Xeを結ぶ戦場に分布し、エコンドライトのデータはU-XeとPu-Xeを結ぶ戦場に分布する。つまりU-Xeはエコンドライトeと炭素質コンドライトXeの定める直線の交点となる。これはU-Xeがこれら2種類の隕石の共通成分であることを示している。
     強い酸で隕石を溶かすとほとんどのXeは失われるが、微量の残留物には高濃度のXeが含まれ、この同位体組成はH-Xe、L-Xeに似るがかなり異なる。これらをDME(H)-Xe、DME(L)-Xeと名付ける。DME(H)-Xeの端成分をDMEH-Xe、DME(L)-Xeの端成分をDMEL-Xeとする。H-XeはDMEH-XeとPu-Xeの混合物、L-XeはDMEL-XeとSp-Xeの混合物であると解明された。また、U-XeにはL-Xeが含まれることも明らかになった。
     多くの炭素質コンドライトでは加熱だけでは、U-Xeとその中に含まれるL-Xeを分離することは出来ないが、Allende, Mokoiaでは加熱で分離できる。これらのことから、基本になる5成分としてU'-Xe(U-Xe - L-Xe), DMEH-Xe、 DMEL-Xe、Pu-Xe、Sp-Xeが考えられる。
     太陽風Xeそのものは (U - DMEL + H)-Xeと考えられる。月試料のデータは、このXeの質量分別と月大気中を循環するXeが加わったものとして説明される。
     月のファインやレゴリスヌ含まれるXeは太陽風が撃ち込まれたもののほか、月の内部や月面の岩石から月大気に放出されファインなどに捕らえられた”循環”Xeが存在する。月試料に含まれるPu-Xeの量は40億年前から38億年前にかけて急速に減少する。




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