系外惑星と太陽系 
井田茂[著]、岩波新書、2017年発行 820円 + 税



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 先に紹介した唐戸俊一郎著「地球はなぜ『水の惑星』なのか」が地球の特徴を見極めて、他の惑星(系外惑星を含む)の生命存在の可能性にまで視野を拡げていたのに対して、この本は、系外惑星から始めて地球の普遍性、特殊性を浮かび上がらせようとしている。地球中心、太陽系中心の考え方は捨てざるを得ない、でも、地球は気になるといったところか。
 まずは、目次から
    第1章銀河系に惑星は充満している惑星系は普遍的存在である
    系外惑星をどうやって見つけるのか
    系外惑星の姿

    第2章太陽系の形成は必然だったか美しい古典的標準モデル
    円盤から始まった
    寡占成長モデルの成功と微惑星形成問題
    巨大衝突モデルの成功と暗雲
    木星型・海王星型惑星の形成問題

    第3章系外惑星系はなぜ多様な姿をしているのか異形の巨大ガス惑星のできかた
    スーパーアースが示すもの
    太陽系を振り返る

    第4章地球とは何か?地球の構成物質
    地球は「水の惑星」ではない
    地球の内部構造
    地球の表層環境

    第5章系外ハビタブル惑星難しい「ハビタブル条件」
    地球たち
    巨大ガス惑星の衛星たち
    赤い太陽の異界ハビタブル惑星

    終章惑星から見た、銀河から生命へ

 1995年に最初の系外惑星が発見されてから現在までに、3500個を超える数の系外惑星が発見されている。最初に発見されたのは主星の近くを廻る巨大ガス惑星(ホットジュピター)で、太陽系を基準に考えれば「あり得ない」惑星であった。太陽系という基準を取り去った時、太陽系とは似ても似つかない、ホットジュピターやエキセントリックジュピター、スーパーアースなどの系外惑星が次々と見つかるようになった。初めは、ホットジュピターやエキセントリックジュピターといった、異形の惑星ばかりが報告された感があったが、発見数がふえ、測定精度が上がり、観測期間が長くなるに従い、ホットジュピターがとくに多いわけではなさそうだというようなことは分って来た。現在の観測精度ではまだ太陽系と同じような惑星配置の系外惑星系を発見するのは難しいようだ。太陽系と同じような惑星系が存在していても現在のところ観測にはかからないということである。ちなみに太陽に似た恒星(G型を中心にF形、K型の一部を含む)の約半数は惑星を持っていそうで、地球と似た大きさで、海を持つ可能性のある惑星を持つものも10〜20%ありそうだという。
 系外惑星の見つけかたはこの本を読んだだけではよく分からないかもしれない。とくにマイクロレンズ法についてはもう少し詳しく説明してもらわないとよく分からない。もっとも、マイクロレンズ法では特定の系外惑星を繰り返し観測することはできないので、系外惑星の公転周期とか、サイズとか、追加情報を得るのにか適していそうにないので、詳しい説明は割愛したのかもしれないが。
 私に取って最も興味があったのは、太陽系形成の京都モデルがどのように改変したかということであった。私に取って太陽系形成モデルといえばまず京都モデルであった。惑星系が太陽系しか知られていなかった頃、太陽系の形成をうまく説明したモデルであった。その当時でもいくつかの問題は指摘されていた。木星が誕生する時点までガス円盤が存在していられたか(この本ではガスは太陽に吸い取られてなくなると書かれているが、太陽系請治に太陽は一時明るく輝くT-タウリ星の時代を過ごし、その時の強い太陽風でガスが吹き払われるといわれていた。太陽に吸い取られるにせよ、吹き払われるにせよ、あまり早いと木星が厚いガス大気を身にまとう機会がなくなる。)天王星、海王星葉現在迄かけても形成が完了しないなどの指摘があった。この本には、火星領域には地球より大きな惑星ができる方が自然であるという指摘もあった。また、小石サイズから微惑星サイズに成長する間にメートルの壁があるという指摘もある。ガス円盤の中で粒子が成長する際、kmサイズ迄はガスの抵抗をもろに受ける。そのような状態では1mに満たない小石は地球軌道あたりからなら100年で太陽に落ちてしまう。太陽系形成をみごとに説明したと考えられていた京都モデルにもいろいろな難点が見えて来たようだ。これらの問題、あるいはカイパーベルト天体の分布を説明するために「ニースモデル」とか「グランドタックモデル」といったモデルが提案されている。これらのモデルでは木星などの惑星は今ある場所に昔からじっとしていたわけではなく、太陽系内を移動したと考えている。また従来の微惑星から惑星への成長ではなく、小石から直接惑星を作る説も出て来て、惑星系形成論は徹底的見直しと、新たな展開が始まっている。
 惑星形成論は私たちの太陽系の形成だけでなく系外惑星系の形成も説明しなければならない。ホットジュピターやエキセントリックジュピターがどのようにして作られたかを説明する仮説もいくつか提案されているらしい。そこでの考察がまた太陽系を見る目にも影響を与える。
 地球はぜんざいのところ生命の存在が知られている唯一の惑星であるが、太陽に似た恒星の10〜20%は地球に似た惑星を持つだろうという。それらの惑星の中で、母星からの距離がある範囲に入り地表に水がある可能性のある惑星を「ハビタブル惑星」と呼ぶ。ただし、生命存在の条件は水があることだけではないようで、量があまり多くなく陸も存在しなければならないだろうか、磁場が存在するかとか、プッレートテクトニクスが必要とかいろいろ意見があって、生命存在のための必要(十分)条件は絞り込めていない。生命の可能性ということだけなら、ガス惑星の衛星やM型恒星の惑星など、地球とは似ても似つかぬ宇宙環境に存在する天体にも生命の可能性はあるかもしれない。
 この分野に興味をもち、ある程度の基礎知識を持つ者にとっては、太陽系がどのようにして作られたのか、生命誕生にはどのような条件が必要かなど、まだまだ解決し切れていない沢山の問題があることを知ることのできる手頃の本である。