kazsan



金花糖




 「附子」という狂言がある。出かけることになった主人が、太郎冠者、次郎冠者に留守番をさせることになる。しかし気になるのは、壺に入った砂糖。留守の間に食べられてはたまらない。そこで「この壺には附子という猛毒が入っている。附子を含んだ風に当たるだけでも命を失うような猛毒なので決して蓋を開けてはならない。」と言い渡します。ダメと言われれば気になるのが人間。太郎冠者は、附子からの風に当たらないように次郎冠者に扇で扇がせ、自分も扇で扇ぎながら壺の蓋を開けます。入っているのはどうも砂糖らしい。恐る恐る一口口に入れる。もう止まらない。2人で全部食べてしまう。我に返った二人。主人にどう言い訳をしようか?太郎冠者は床の間にある掛け軸を破り、天目茶碗を割り、主人が帰ってくると2人で大げさに泣く。「居眠りをしてはいけないと2人で相撲を取っていたら、掛け軸を破り、茶碗を欠いてしまった。合わす顔がないので死のうと思って2人で附子を食べたが死ねないので泣いている。」と。主人の反応は・・・・
 狂言のタイトルとしては「ぶす」と読む。ふつうは「ぶし」と読むらしい。トリカブトの根からとる毒で、アイヌなどが矢に塗って毒矢とした。なお不美人を指す「ブス」もトリカブトの毒に当たった時の表情からきているという説もある。
 永いこと甘みは人々のあこがれだった。干し柿など、上品な甘みを持ったものはあったが、甘みそのものの「砂糖」はそう簡単に手に入るものでなかった。高価なぜいたく品だったのである。私が子供のころは、お中元、お歳暮の定番に砂糖が入っていた。紅白の角砂糖が送られてきたりした。鯛の形をした砂糖 ―1kgもあっただろうか― の塊が結婚式の引き出物だったこともあった。私が子供の頃は今のように甘いお菓子が溢れていたということはなかった。飴、キャラメル、チョコレート(贅沢品だった気がする)。みかんも、りんごも、みんな酸っぱかった。
 そこで本題の金花糖である。桃の節句には、お雛様を飾った。お雛様のお供えといえば、菱餅、雛あられ、白酒が定番であるが、私の家では、菱餅も白酒もなく、雛あられと金花糖が供えられた。鯛、茄子などの野菜の形をした金花糖が小さな籠に載せられていたか、三宝の上に載せられていたか、記憶は定かでない。白い薄い砂糖の殻に食紅で色をつけていた。駄菓子と言って良いのだろう。そう高価なものでもなく、簡単に手に入れることができた。それが、今では・・・・
 雛人形を飾ったので、金花糖を供えようと思い、ネットで探してみた。なんと、東京では、作っている菓子屋は1軒だけだという。注文生産で、二週間くらいかかるとのこと。値段も結構する。もう駄菓子とは言えまい。他に、金沢で2件くらいヒットした。こちらの金花糖は随分色づきも良く、駄菓子とは思えない。値段も東京のものの倍以上はしそうである。今の子供は砂糖を舐めるなどということを楽しみにはしないのだろうから、金花糖が消えてゆくのも仕方のないことかもしれない。寂しいが。

 結局東京の萬年堂の金花糖を取り寄せた。昔買った駄菓子風の金花糖である。3月3日には間に合わなかったが、山形のひな祭りは月遅れだから、4月まで飾っておくことにした。(20240315)





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