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ロクム、北欧の神秘、ブルックナー




 今年の4月から東京都交響楽団のBプログラムの会員になった。8回のコンサートのうち3回にブルックナーの交響曲が含まれており、その他にもショスタコーヴィッチの8番など聞いてみたい曲が結構含まれているというのが理由である。4月3日はその1回目で、ブルックナーの交響曲第3番が演奏される。もう1曲はアルマ・マーラーの歌曲7曲のオーケストラ編曲版。アルマ・マーラーにもちょっと惹かれるものがあった。

 演奏会は午後7時開演である。せっかく東京に出かけるのだから音楽会の前にも美術館とか博物館に足を運びたい。朝日新聞にSOMPO美術館で「北欧の神秘」という美術展の宣伝が出ていることを思い出した。SOMPO美術館は新宿駅の近くである。それならばと代々木上原にあるトルコ文化センターに足をのばすことにした。ハラルマーケットで以前から気になっていたトルコのお菓子「ロクム」を買うことができるだろう。レストランもありそうだから昼食を取ることもできそうだ。いろいろ考えて、自宅 ー 横浜駅 ー トルコ文化センター ー SOMPO美術館 ー サントリーホール ー 横浜駅 ー 自宅、というコースに決めた。家から横浜駅までは敬老パスが使えるバスでゆく。横浜駅で東急の「東急ーメトロ1日切符」を買い、横浜に戻ってくるまではその切符で乗り継ぐ。つまり、代々木上原から新宿への移動は小田急を使わずに、明治神宮前ー新宿三丁目経由で行くということになる。横浜駅から自宅までは、夜も遅くなるので京浜急行を使う。まあこんな計画を立てた。
 トルコ文化センター内のハラルマーケットで、「ロクム」を買うことはできた。硬いゼリー状のもの---ゆべしのようなと書いたものもある---をチョコレートで包んだものである。色々なヴァリエーションがあるのであろう。チョコレートで包まず、ナッツが入っているものもあるようだ(ここでは売っていなかったが)。レストランで食事をするつもりだったのだがラマダン中の食事の提供は午後5時からということで、当てが外れた。仕方ないので食事は新宿ですることにする。せっかくなのでトルコ料理を食べようと、西口にある小さなトルコ料理店へ。スープ、サラダ、ピタパン、羊のケバブ(メインディッシュ)、トルコ紅茶、スイートのランチに満足した。


 SOMPO美術館へは雨の中を歩いて10分ほど。以前来た時は「東郷青児記念美術館」といったような名前だった。ゴッホの「ひまわり」で有名な美術館である。朝日新聞によるとムンクの作品も展示されているというが、それほど大きな期待も持たずに会場に入った。絵画は4つにグループ分けされて展示されていた。序章:神秘の源泉--北欧美術の形成、1章:自然の力、2章:魔力の宿る森--北欧美術における英雄と妖精、3章:都市--現実世界を描く。序章はバルト3国の美術が個性を持ち始めた時期の絵画が集められれおり、制作年代は1860年ごろを中心とする。残りの3章は1900年頃描かれた絵画を集めており、これらの国々が独自性を自覚し、民族意識を強めてゆく時期にあたる。描かれた風景はイギリスに似ていてもやはり北欧であり、都市の風景もこれはやはり北欧なのだろうなと感じさせる。特に魔力の宿る森と題された第2章では、北欧民話の場面が描かれ「トロル」が描かれる。「トロル」---この北欧民話にたびたび登場する薄気味悪い妖怪は子供の頃から馴染みがあった。岩波少年文庫の一冊であった北欧民話集「太陽の東、月の西」は子供の頃に何回も読んだ。
 この展覧会に並べられた絵画の作者はムンク以外の名前は知らなかった。しかし見たような感じの絵はあった。例えば、序章に含まれるラーションの「滝のある岩場の風景」(下1段目左)。ナクソスから出ているスウェーデンの作曲家アルヴェーンの交響曲第2番のカバーの絵(下1段目右)と感じが似ている。家に帰ってCDを調べたらやはりラーションの絵であった。交響曲第5番のカバーは第3章に「街」の題で展示されていたストリンドバリの作品(下2段目右)であった。ストリンドバリの絵(日没:下2段目左)は交響曲第4番のカバーにも用いられている。
 1900年頃は、絵画だけでなく、文学でも音楽でも民族の自覚が強く意識された時期だったのであろう。文学では北欧神話、民話への関心が高まったゆくし、音楽でも民族意識が高まる。シベリウスは北欧神話「カレワラ」に基づく曲を書いているし、アルヴェーンも民話に基づく曲を書いている。シベリウスの名作、交響曲第2番が描かれたのは1902年、国際的に通用するスウェーデン最初の交響曲と称賛されたアルヴェーンの交響曲第2番は1899年に初演されている。絵画だけでなく、芸術全体を含んだ運動であったことが認識できたのが一番の収穫であった。



 本日の目的のコンサートはサントリーホールで午後6時会場、午後7時開演。一曲目のアルマ・マーラーの歌曲は初めて聴く曲。元々はピアノ伴奏だったものを、イギリスの作曲家D.マシューズとC.マシューズの兄弟が管弦楽伴奏版にしたもの。解説には、「アルマの歌曲はこれまで様々な人物によって管弦楽化されているが、マシューズ兄弟による編曲は、歌詞の内容や曲想に合わせて積極的に管弦楽のサウンドを変化させ、伴奏が原曲以上に情景を雄弁に物語っている。その結果、マーラーの管弦楽伴奏付き歌曲に近づいているのが特徴だ。ただし詩人の選択はマーラーの好みと異なり、シェーンベルクに近い。」と書かれている。残念ながら初めて聴くドイツ語歌曲の意味を聞き取ることは私には無理だし、曲想にあっているかどうかも判断できない。ただ聴いていて抵抗のない綺麗な音楽だと思った。メゾソプラノは藤村実穂子。よく通る声だった。大野和士指揮東京都交響楽団。
 20分の休憩後はお目当てのブルックナーの交響曲第3番。1877年の第2稿による演奏。第2項に基づく出版譜にはエーザー版(エーザー校訂)と言われるものとノヴァークII(ノヴァーク校訂)の2種類があるが、今回はノヴァークIIによる演奏。この交響曲は演奏機会はそれほど多くないらしい。多く演奏されるのは1889年改定の第3稿にもとづくノヴァークIIIであるが、最近はワグナーに献呈するためにワグナーからの引用を散りばめた第1稿もよく演奏される。第2稿は演奏機会が少ないのかもしれない。しかし私にとっては、第2稿(エーザー版)がこの交響曲のスタンダードである。私が大学生の頃はまだブルックナーの交響曲にLPはあまりなく、入手が簡単だったハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を買った。この演奏がエーザー版だった。その後、第3稿に基づくクナッパーツブッシュやシューリヒトを買ったが、CDプレーヤーを買ってから2枚目のCDがクーベリック/バイエルン放送交響楽団のブルックナー第3交響曲でこれもエーザー版による演奏だった。そのほか、マタチッチ/ウィーン交響楽団の演奏もエーザー版である。ノヴァークIIによる演奏もアーノンクール/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のCDを持っている(きちんと聴いた記憶はないが)。
 逞しい演奏だった。第2交響曲から第5交響曲まではブルックナーが一気に書き上げた一連の交響曲であり、交響曲第5版完成後に改訂を受けた交響曲第3番のノヴァークIII、交響曲第4番のノヴァークIIを除いて、ブルックナーの前半期(中期?)の交響曲に属し、これらの曲は後期の交響曲のようにゆったりと演奏されるものではなく、かなり早いテンポで演奏されるべきものだと思っている。今回の演奏は中期(?)交響曲の性格を捉えたものだったと思う。ノヴァークIIにだけあるスケルツォのコーダは初めてまともに聴いた。

 最後に大トラブルが待っていた。横浜駅で東急・メトロ1日切符を買うとき、紙の切符にするかPasmoに印刷するかの選択があった。以前紙の切符を買ったとき、六本木一丁目の第3改札口では紙の切符が受け付けられなかったので今回はPasmoに印刷を選んだ。1日切符の表示がPasmoの券面に印刷されてきたのには少し驚いたが、どこの改札口でも問題なく通れて快適だあった。ところが、帰り道、横浜駅で京浜急行に乗り換えようとしたら改札口で拒否された。駅員に聞くと、1日切符の印刷がされていると改札機が受け付けないのだという。東急の券売で解除してもらってくださいと言われ、東急の改札へ逆戻り。取り消しには書類が必要だ、本人確認のため免許証か何か必要とか言われ、大変な目にあった。きちんと注意書きなどを掲示しておいてほしい。(20240407)





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